#6 知られざるエニグモの「新規事業」立ち上げの歴史、経営者として大事にすべき心構えとは? エニグモ代表・須田 将啓氏

#6 知られざるエニグモの「新規事業」立ち上げの歴史、経営者として大事にすべき心構えとは? エニグモ代表・須田 将啓氏
📕Summary
「スタートアップ オフレコ対談」は、XTech Venturesの代表手嶋とゲストの方をお呼びして対談する番組です。今回はエニグモ代表の須田さんをゲストに迎え、C2Cマーケットプレイス「BUYMA」について伺いました。
後半では、上場から10年経った経営者として、現在は何を考えているのか。エニグモの今後の展望について、須田さんの率直な胸の内に迫っています。
🔊Speaker
・手嶋 浩己(@tessy11)
XTech Ventures代表パートナー
対談内容
※記事の内容は2021年11月時点のものです。
過去の新規事業と撤退理由、黒字化へのプレッシャー
手嶋:ここからは、エニグモという会社が今までやってきた事業や、経営者である須田さん個人の話を聞いてみたいと思います。
エニグモって実はユニークな新規事業が過去にたくさんあって、たくさん撤退した歴史がある。結果、現在は「BUYMA」に集中してますが、それをどう捉えているのか、少し俯瞰した話を聞けたらなと思ってます。これまでどんな新規事業にトライしたか、どういう目的だったのか、M&Aもしたけどなぜ撤退したのか、その辺りを教えてもらっていいですか?
須田:結構な数の新規事業をやってきましたが、その中で一番当たったのは、「プレスブログ」という、ブロガーにクライアントの新商品プロモーションを依頼して、書いてくれたら謝礼をお支払いするビジネスです。今だとステマとか言われてしまうこともありますが、当時はそもそもステルスで広めようという目的ではなくて。「世の中の人に知ってもらうにはどうしたらいいか」と考えてできたのが「プレスブログ」でした。
ただ、半年間で20社ぐらい、あまりにも多くの競合が参入してきてしまいました。価格破壊も起こるし、変なサービスを使ってしまったクライアントからは「ろくでもないサービスだ」と言われて、イメージも悪くなっていってしまった。3年ぐらいで曲がり角を迎えたというか、難しいなと感じていたんです。
次に、テレビCMをYouTuberに制作してもらって配信する動画サービスもやっていました。これは現在なら当たっていたかもしれませんが、今のようにYouTuberに影響力がある時代ではなくて、単純に面白い動画を作ってバズればラッキーみたいなモデルだったので。クライアントからあまり宣伝効果がないと思われてしまい、ちょっと面白いだけのサービスになってしまいました。
両方に言えるのは、利益が出る仕組みになってなかったということ。「BUYMA」の場合は売れれば売れるほど、商品がどんどん集まってSEOも強くなって、さらに売れるという好循環が回るんですが、当時やっていた広告サービスは、1回1回クライアントを口説いて獲得して、やったら終わりを繰り返すような焼畑農業。継続してやるのはきついなというのは、やりながら感じていました。それが撤退の大きな要因です。
一方で、マーケットプレイスを「BUYMA」以外にもやっていこうと、シェアリングのマーケットプレイスサービスの「シェアモ」を始めたこともあります。「フライパンからジェット機まで」と、何でもありということを表したコピーを使って、着なくなった服、しばらく運転していない車など、自分が使っていないものをどんどんシェアすることで、無駄なく生活できる。そんな新しいライフスタイルの提案を打ち出していました。これは月間取引が5万件くらいの規模までは育ちました。
1取引に対して100円〜200円を課金すれば、まあまあいけたかもとは思いつつも、ちょうどそのとき、残金が1億円を切るぐらいのとこまでいってしまって。広告事業がリーマンショックの影響で赤字になって、かなりやばい状態になってしまったので、稼げない事業は全部閉じるという方針のもと、このシェアリングサービスも閉じました。
手嶋:「プレスブログ」とか動画サービスは当時、広告業界で一世を風靡して、短期的には収益化に成功したと思うんですけど。一方で、「BUYMA」が育つまで時間がかかりそうだから他の事業を立ち上げなきゃというのも当時あったと思うんですよね。1つ質問なんですけど、今のようにめちゃくちゃ資金調達できる環境だとしたら、それでも新規事業や広告事業をやっていますか?
須田:いや、今の知識レベルだったらやってないと思います。今だったら、深く赤字を掘ってから上がっていく、なんなら赤字のままトップラインを伸ばしていくのも許容される時代です、と。自分も、そういった成功事例をもし見ていたら「まだまだ掘れるっしょ」とやれたかもしれませんが、毎月1000万円が自分の判断で広告費用で溶けていく感覚って、やっぱり胃が痛くなる部分があって。とにかく会社としてなんとか黒字になっていかなくてはという中で、「プレスブログ」は精神安定剤のような存在で、すごく助かっていたのは事実です。
どの新規事業も、既存事業を進めていく上で思いついたケースが多いんです。「BUYMA」の運営でどの広告も効かない中、最も集客できたのが、プレスリリースをブログで「こんな面白いサービス見つけました」と取り上げてもらえたとき。クリックで飛んできてくれるケースがちょこちょこあった。1個のブログからは100人程度しか来ないけど、それを1万個2万個とネットワークすれば100万人とか200万人がやってきてくれるのではないかというのが原点だったので。
手嶋:なるほど。エニグモを昔から知ってる人は、とにかく新規事業のアイデアをたくさん出して実装できる会社というイメージが強い。一方で、今のエニグモしか知らない人は、「BUYMA」の会社というイメージが強いのかなと。新規事業をたくさんやるのはやめようって思った瞬間ってあるんですか?
須田:リーマンショックのときですかね。正直、リストラせざるを得ない環境に陥って、当時70人ぐらいいた社員のうち20人ぐらいに辞めてもらった。その反省というか、固定費上げることに対する抵抗感や怖さは、当時やっぱりあって。
あとは、イノベーションのジレンマ。こんな小さいベンチャーが言うなと思われるかもしれませんが、やっぱり「BUYMA」に集中してからのほうが明らかに効率が良かったので。上場の際に想定していた、営業利益30億円まではなんとかやり切りたいなという思いがありました。利益を追求するフェーズがどうしても続いてしまったっていうのはあります。
ただ今は、そこに到達できたので、改めて攻めの姿勢で、次の大きなマーケットを取りに行くチャレンジをしようと思ってますね。
手嶋:それで今狙っているのが、「BUYMA」のライフスタイルカテゴリとグローバル「BUYMA」の市場ですか?
須田:あと、裏でいくつか構想したりトライアルをやっていたりするものもあります。
手嶋:「BUYMA」のアセットを使わないような事業も含まれてるんですか?
須田:全然使わないものもあります。
手嶋:固定費を上げる怖さとか、資本効率を考えると「BUYMA」をやり切るべきだと集中していたのが去年ぐらいまでで、今はまたスタンスが変わってきてるんですね。
須田:そうですね。以前、サイバーエージェントの藤田さんが、利益10億円くらいのフェーズが一番つらかったみたいなことをおっしゃっていて。やっぱり何かに投資すると、営業利益に与えるインパクトが大きくて、そのコントロールが非常に難しいと。
ただ藤田さんは50億円を超えたあたりから、「投資に対する景色が変わった」ともおっしゃっていて、その心境は少しわかります。今のベンチャーって下を掘りながら大きなマーケットを取りに行くのが当たり前になっていますが、私たちの時代はなるべく販管費の中でやりくりをしながら伸ばしていくのがスタンダードな環境で育ってきた。そこを抜け切るまではやり切ろうと、利益追求モードで30億円までやってた感じですね。
手嶋:今はトライアル期間中だと思うんですけど、うまくいって表に出るのが楽しみですね。新規事業を行うにあたって、「BUYMA」のアセットを使わないものもあるということだったんですけど、こだわってるポイントってあるんですか?
須田:やっぱり、時代の大きな流れに乗っていて20年後も存在しうるサービスであるっていうことと、やればやるほど強くなる構造的な強みを内包していることですかね。
手嶋:そういう戦略って自分で考えてるんですか? それともブレーンチームがあるのかとか、現場が突然言ってきたとか、どういうパターンですか。
須田:今までの事業は基本的に役員発案のものが多くて。なので、まだサイバーエージェントみたいに社内からアイディアを募集するような仕組みはありません。ただ社内の風通しはよいので、社員が何か思いついたら一応プレゼンは聞くようにしています。新サービスまでは生まれていないものの、「BUYMA」の新しい機能や新しいプロモーションは、思いついた人にプレゼンしてもらって「それいいじゃんやろうよ!」みたいなことは結構ありますね。
手嶋:それって、突然、コンコンとドアをノックして入ってくるんですか(笑)? それとも、メールやSlackで来るとか。
須田:ノックされるパターンもあります。今は若い世代とそんなに飲みに行ったりしていないんで、直接は言いにくいみたいで。まず部長が提案を聞いて、私との面談のセッティングをしてもらうパターンが多いですかね。
手嶋:なるほど、ちょっと会社っぽくなってるんですね。
上場して10年、経営者としての考えと今後の展望
手嶋:上場して10年なんで当たり前ですけど。エニグモも2012年の創業から約10年経って、須田さんも47歳になって。我々が博報堂をやめたときって30前後ぐらいで。いつまでも若いつもりでいて、インターネット産業に来て、知らず知らずのうちにもう40代後半になったなという感じなんですけど。
上場して10年、事業も安定して成長してきた40代後半の経営者が何を考えているのか。後輩の起業家からすると、まずは上場を目指している人が多いと思うのですが、今後、自分の経営者人生を考えたときに、決めていることとか、悩んでることとかありますか?
須田:どうしてもやり切りたいのは、やっぱりアメリカをはじめ海外での成功ですね。ゴールのイメージは、ニューヨークで鐘をついている姿ですね。
手嶋:アメリカで上場。
須田:でもいいですし、タイムズスクエアを借り切って、鐘を鳴らすってもいいですよね。
手嶋:何かしらの鐘を鳴らしたい(笑)。
須田:ニューヨークで上場することに意味があるならしたいです。意味がなくても、それなりの規模になったら、そういったセレモニーみたいなことをして、自分の気持ちにひと区切りつけたいなというのはありますね。当時の創業メンバーや今の社員も全員連れて。タイムズスクエアで、なぜかわからないけど鐘を鳴らす。
手嶋:やっぱりグローバル事業を大成功させるってことに、まず意識がいってるんだね。
須田:そうですね。それがどうしてもやり切りたいことなんで。本当は50歳までにやりたかったんですけど、おそらく間に合わないので、ちょっと延長して。
手嶋:どうですかね。僕は5〜6年ぐらいのイメージで捉えてますが。
須田:ちょっと気が長い話になってしまいますが、10年以内にはやはり達成すべき目標だと思ってます。できれば6〜7年以内ですかね。どんな事業も7〜8年で形になるなというのは、経営してたり自分でエンジェル投資も少しやってたりする中で感覚としてあるので。US事業もようやく立ち上がってきたので、ここから7〜8年ぐらいでそれなりになれるんじゃないかなあと思ってます。
手嶋:エニグモは経営体制も含めて少数精鋭で今まで来てると思うんですけど。今後10年を考えたときに、組織や経営体制は変えていきたいと思っているんですか?
須田:そうですね。やっぱり優秀な人の数が会社の成長を作っていくと思うので、まだまだ幹部クラスを増やしていかないといけないですし。人を増やす手段の一つとしてM&Aはすごく機能すると思うので、M&Aなども活用しつつ、エニグモのグループをどんどん強くしていって、影響力を高めていきたいなと思ってます。
手嶋:M&Aでいくと、数年前から体制を作ってますよね。こういうのって縁もないとうまくいかないし、慎重に検討していると思うんですが、どういう会社と可能性があるとか、どういうことを実現していきたいとか、何かありますか。
須田:すごくシンプルに言うと、既存の事業をスピードアップするものか、新規でエニグモのノウハウを活かして買収先を伸ばせるもの。我々はSEO・マーケティング・プロモーションなどの運営力が強くてノウハウを持っている。
マーケットプレイスも勝手に売れてきたのではなく、いろいろなプロモーションをあの手この手でやって成長を作っている部分があるので。そこのノウハウを活かせるので、ECならいろいろ可能性はあるんじゃないかなと思ってます。
あとはメディアも運営しているので、その運営力を活かして、D2Cの会社も検討しています。今、D2Cブランドを作る能力は社内にはないけど、それを広めるノウハウとか購入してくれるお客さんを持っているので、そういった会社と一緒に組むっていうのはすごくありかと思っています。
手嶋:聞いている限り、M&Aの対象として、比較的広いスコープを持っていますね。エニグモなら売り込みもあったり、自分たちでソーシングしたりもすると思うんですけど、あまりM&Aが実現に至らないのは、どういうハードルがあると思いますか。
須田:やっぱり、D2Cだと値段が高すぎるんですよ。経営損失リスクも含めるとなかなか合うところがなくて。
手嶋:経済合理的な理由が大きいんですね。
須田:そうですね。そこまで高い企業を買っても、ペイできるほどマーケットが育つかな、という懸念はあります。
手嶋:社外取締役であるエムスリーの谷村社長はM&A巧者だと思うんですけど、いろんなアドバイスをしてもらってるんですか。
須田:もう、谷村さんは毎回、珠玉のアドバイスをくれます。
手嶋:言える範囲で思い出に残ってるアドバイスはどういうものか。「これ高いよ~!」とか(笑)?
須田:ちょっと言える範囲のものがあんまり思いつかない。でも、M&Aの手法がマッピングされているものを見せてもらったり、マッキンゼーが出しているM&Aの成功パターンと失敗パターンみたいなレポートを見せてもらったりとか。1個1個、すごく実践的なアドバイスをもらえて、毎度勉強になってますね。
手嶋:聞いていて思ったのは、「BUYMA」が今も伸びていて、すごくプロフィタブルで利益率も高いので「BUYMA」集中路線がしばらく続くのかなって思ってたんですけど、新規事業やM&Aにも前向きだし、10年後にどんな会社になるのか、わかんない感じですね。
須田:EC領域でいくと、GMVで1兆円っていうのは本当に10年以内に達成しようと思ってるんで、アメリカも含めて。日本のファッションで3000億円、アメリカで3000億円〜4000億円、ライフスタイルやその他のカテゴリーで3000億円。1兆円っていうのは、肌触りとしてはある感じなんで、そこはまず目指していきたいですね。
手嶋:その中にM&Aのような選択肢もあるっていう感じですね。
須田:はい。そこで出た利益で、当然別のマーケットを取っていく。やっぱりメルカリさんに対して悔しい思いはありますので。若い会社に一気に抜かれてっていうのはやっぱりあるので、我々も大きいマーケットを取っていきたいなと思ってます。
手嶋:須田さんはさっき言った通り、エンジェル投資もやられてますし、M&Aで会社としては積極的にやっていくそうなので、マーケットプレイス型の事業運営をしている方、エニグモのM&Aのスコープに合うんじゃないかという起業家の方はぜひ須田さんのTwitterのDMで連絡してみてください。須田さん、ありがとうございました。